おばあさんは、言いました。
「森へ木の実を取りに行っておくれ。青くて小さな木の実だよ。
 少しあれば足りるから、残りはお腹いっぱい食べておいで。
  ただし、熟し終わった紅い実は食べてはいけないよ。お前の小さな体には、まだ毒だろうからね」
 女の子はおばあさんから、道のとおりに森を進めば実のなる木を見つけられることと、
  道の途中には悪い動物がいるから気を付けなければいけないということを聞きました。
「じゃあ、気をつけて行くんだよ。」
「はい、おばあさん。行ってきます。」
 女の子は手を振りながら、籠を片手に駆けていきました。

 なだらかな道を歩いて橋を渡ると、丸々とした狸が親しげに話しかけてきました。
「こんにちは、お嬢さん。」
「こんにちは。」
 女の子は挨拶を返しました。
「お日様射す中どちらまで?」
「青い実を取りに、実のなる木まで。」
 そう言って、女の子は歩いてゆくべき道の先を指差しました。
「そちらの道では実のなる木には辿り着けません。あちらが近道です。私めがご案内いたしましょう。」
 狸が指差した道は、木のある所に行くには確かに近い道でした。
 しかし、迷ってしまいやすい細い獣道です。安全ではありません。
 けれども女の子は疑う事を知らないので、狸の言う事をそのまま信じてしまいました。
「ありがとう、狸さん。わたし狸さんが教えてくれた道を行くわ。」
「お気をつけて、お嬢さん。」
 丸々とした狸は親しげに手を振り、女の子を見送りました。

 さて、女の子が獣道を進んでいくと、ほどなくして恐ろしげな虎がいました。
「こんにちは、虎さん。」
 しかし、虎は女の子の挨拶を気にも留めませんでした。
「ん? 美味そうな匂いがするな。」
 虎は女の子ににじり寄って鼻をひくつかせます。
「ふむ、見れば肉も柔らかそうだ。」
 虎はにやりと笑って舌なめずりをしました。
「娘、今からお前を喰ろうてやるわ。丹念に、隅々までな。」
 虎は爪を振り下ろす仕草をしました。
 女の子は恐ろしくなって逃げ出しました。
 枝や草が服に引っかかったりしましたが、気にはしていられません。
 そんな女の子を、虎は楽しそうにじわじわと追いかけていきます。
「ははは、どこまで逃げても無駄だぞ。」
 それでも女の子は逃げました。
 いつの間にか虎はいなくなっていましたが、それでも女の子は逃げました。

 しばらく走ると、大きな木が見えてきました。
 その木には青い実や紅い実が成っていたので、女の子はそれが探していた木なのだとわかりました。
 方向もわからずに走っていたので、木を見つけられたのは不幸中の幸いでした。
 屈んで、女の子は地に落ちた青い木の実を拾います。
 そこに楽しげな狐が現れて、女の子に話しかけました。
「やあ、お嬢さん。」
「こんにちは。」
 狐は笑顔を張り付かせて女の子と話します。
「こんな森の奥まで何をしに?」
「青くて小さな木の実を拾いに。」
 そんな話をしているうちに、木の実は籠いっぱいになっていました。
 女の子はおばあさんの言ったとおりに、小さな青い木の実をかじってみます。
 それは甘いような酸っぱいような、とても不思議な味でした。
「わあ、美味しい。」
 女の子は夢中になって木の実を集めます。
 ひとしきり集めて食べようというところに、その様子を見ていた狐は言いました。
「紅い実は食べないのかい?」
「おばあさんが、食べてはいけないと言ったわ。」
 女の子は、聞いたとおりの事を言います。
「ああ、それはお気の毒に。」
 狐が実を一つ拾い上げて磨きました。
「見てご覧、この色艶。とても美味しいのにもったいない。」
 狐は、そういって果物を一かじりするとにっこりと笑いました。
 女の子は紅い実も食べてみたくなりましたが、おばあさんとの約束を思い出しました。
「やっぱりだめよ。おばあさんと約束したもの」
「きっとおばあさんはこの美味しさを教えたくないんだよ。病みつきになるからね。」
 狐はもう一つ実を拾い、磨き上げて女の子に差し出しました。
「試しに一つだけ、いや一かじり食べてごらん?」
 女の子は誘惑に負け、食べる事にしてしまいました。
「本当に、一回かじるだけよ。おばあさんに言っちゃ嫌よ?」
「それはもう。僕はこの味を知らないのは気の毒だと思っただけだからね。」

 それは食べてはいけない木の実でした。
 紅い木の実は美味しい毒なのです。
 甘い匂いで虫を欺く花があるように、この木の実もまた人を欺きます。
 そして女の子は小さかったので、同じ量の毒でも大きな毒になりました。

 森の梟が、目を光らせて静かに見ていました。
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○後書き
これからえっちい話になる予定です(何
今のままでも捻じ曲がった解釈をできればえっちい……かな?
それはそうと……どうなんだろうなぁ、こういうのって。
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