ヤバイ。ヤバ過ぎる。
 これぞ生命の危機! 警告音の奔流!
 殺気をビンビンに感じるぜ……
 絶対にここにいちゃいけない。
 てか無理だ。耐えられない。
 俺、駆侍島黄然は――ここに逃亡を宣告する!


SISS_1(←Shadow.の 意味の無い SS 第一回。(←次回があるかは未定
ノリで突っ走る駆侍島ショートストーリー
「あいつの父さん」


「クソッ、俺のバカ!」
 大丈夫。バカ!バカ!×××!とかは言わない。
 俺が今そんな事を言ったら、さらに状況が悪化するし。
 突然叫んだらきっと人格疑われるし。連呼したらたぶん危ないし。
 ああでも叫んでみたいと思ってしまう若気の至り。でも今は絶対無理だ。
 俺は街をとにかく疾走していた。
 どこに行くか、だって?
 関係ない。俺は俺の行きたいように……いや、逃げれるように行くだけさ。
 安心しろ。多少の信号無視や交通渋滞はデフォだ。
 青は進め、黄色は進め、赤は進めだ。ジャ○アン理論と似たようなもんだ。
「何をそんなに急いでいるんだ? 馬鹿」
「誰かと思えば士牙か。っつーかお前の中で俺を馬鹿って呼ぶの定着してるのか?」
 どうせ定着してるんだろうけどな。
「親父の壷……正確には家に伝わる梅干の壷を割っちまってな。逃げてる」
 あの梅干大好きなんだよなぁ……親父。
 だから現在の危機っぷりが際立つわけなんだが。
「……よくあの父を相手にそんな大それた事を」
「俺だってしたくてしたわけじゃねーよ」
 確かに俺の不注意なんです。でも聞く耳持たないんです。
 言語同断なんです。常に一方的な断罪なんです。
「謝って済むなら幾らでも謝るぜ。謝って謝って謝り倒してやる」
 それはもう心から謝りますとも。
 でもそれが通じないから困ってるわけなのだよ、士牙君。解るかね?
「相変わらず訳の判らん事を……まぁ私から言えることは一つだ。冥福を祈る」
「ちょい待て。俺が死ぬ事前提か? 死ぬの確定か?」
 などと言ってる間に殺気が動き出した……!?
 これはきっと近しい者にしか判らない殺気だ。
 今、俺には魔影を感知する事はできないが、怒った親父は感知できる。
 きっと境地だ。奇跡だ。生存本能か何かかもしれない。
「じゃ、じゃあな! 士牙! 願わくば生きて、また会おう!」
「――これが私が見た、友人の最後の姿であった……」
「……ふ、不吉なナレーションするな!」
 ……ってつい立ち止まって話をしてしまった。
 今のうちに距離を稼いでおかないと殺られる。
 うちの親父はたぶん常人じゃないからな。

「あ、駆侍島君! おはよー。朝からジョギング? 偉いねぇ」
 うんうんと頷いて一人合点してるナイスプロポーション。
 長い髪が似合うその同級生は……冬見だぁ!
「ジョギングか……そんな平和的なもんじゃないぜ」
「じゃあ何で走ってるのー?」
「それはまぁ、色々……」
 と、言いかけた時だった。
 気付かぬ間にというか必然的にというか立ち話をしていた俺に危機が迫る。
 俺が走ってきた方から巻き上がる砂煙。
 それはまるで俺の愛すべき漫画やアニメの演出の如く盛大に巻き上がっている。
 その砂煙を巻き起こしているのは、頭を丸めた袈裟姿の……
 そこまで観察して我に帰る。
「……じゃあな! 冬見!」
「えぇ!? く、駆侍島君!?」

 もうこんな近くまで来ていたとは想定外だ。
 あの社長もビックリだぞ。ありえん。
「待てぇい、黄然!」
「待てるわけねぇだろ!」
 ……角を曲がる時とか、壁を走ってるんですが。人ですか?アナタは。
 あのマジシャンもハンドパワーとか言ってられない勢いだぞ。
 どういう仕組みで走ってるんだよ。重力属性無効?
 走ってる間にもだんだん距離が縮まってるようだ。ヤバイ。
「!?」
 俺の視界を閃光が支配する。
 咄嗟に目を瞑ったにも関わらず。
 う お っ ま ぶ し っ 。
 目に染みる!なんだこの光!
 閃光手榴弾!?太陽拳!?おんみょう弾!?
 A番が正解か!?
 何にせよ止まってる暇はない、走り続けなければ俺の命が!
 だがこのまま走り続けても恐らくじきに追いつかれる。
 奇策かなにかを用意しなきゃ殺られる!
 まずは道を思い出せ……
 そうだ、もう少し走れば路地が何本も伸びてる道がある。
 そこを上手く使って親父を騙して方向を変えれば、何とかなるかもしれない。
 いや、何とかしなきゃダメだ。死ぬから。
 チャンスは一回。ワンスモア!チャンスは一回!
 もう一度いくぞ!チャンスは一回!ワンモアタイム!チャンスは(略
 よし、ここを……右に曲がる!そして左、また左に曲がる!
 つまり元の道に戻ってきた。そのままさっき来た方へと逆走だ!
 少しだけ、わずかながら時間を稼げた……はずだ。

「おー、なんや駆侍島。息切らして。ジョギングなら付き合うで」
「そんな暢気なもんだったらどんなに良い事か……」
 やべぇ、涙出てきた。
「俺だって梅干は好きさ! あぁ好きだとも! 過失なんだよ!」
「……何言うてんのや?」
「この話は少年の日が見た幻想とか妄想とか悪夢とか、そういうもので出来ていたと思え」
「???」
 こっそり台詞を拝借。
 ……って。
 今、足下に滑空する何かの影が見えたんですが。
 そして俺の知る限りこの辺りで滑空する影といえば一つしか無いんですが。
 そう、その『人物』は……
「お、おおおおお、おお親父……」
「……そちらの方は黄然の学友か?」
「え、あ、ハイ。こんちわ」
「今日はお引取り頂きたく。宜しいか?」
「わかりました。ほな、駆侍島」
「ま、待て! 俺を置いて行くな! 不破ー!」
 まずい。かなりまずい。天命尽きたか。
 温和オーラがだんだん変質していくのが判る。
 空気が振動している。景色が……歪んでいる?
「さて、黄然よ。言いたい事は一つだ」
 うちのおやぢ、いつもとかわらずほんきです。
「梅干を弔えぇぇぇえええ!」
「ごめんって親父! あれだって過失! 不可抗力! 不幸中の幸い! あ、これ違うか。
 まぁとにかくそんな感じだから今回ばかりは! 今回ばかりは赦しごぱぁ」
 真っ赤に染まる視界。口の中に広がる血の味。
 薄れゆく意識の中で俺が最後に見たのは、親父の憤怒の形相だった……
 ざんねん! わたしの ぼうけんは これで おわって しまった!
                                    <了>
Dead End 1:親父の梅干
--------------------------------------------------
○後書き
何をしたいのかわからないのは仕様です。
きっと駆侍島だから許される(何
判ってます判ってます。許す許さないの問題じゃありませんね。
ごめんなさい orz
『大雑把な桃源郷。』トップへ